オニテンの読書会

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理想の青春像と、大人への物語 エーリッヒ・ケストナー『飛ぶ教室』 【108円本屋大賞】

【108円本屋大賞】

某大手古書店チェーンに存在する100円均一棚。それは、売れ残り、値段が下げられ続けた本たちが、最後に行き着く、最果ての地である。しかし、そんな棚にも、傑作、名作が眠っている。そんな本を救い出し、読み、人に勧めたら、、、

と思った、わたしが始めるシリーズです。

 

 

まず、第一弾は、こちらです!!

 

エーリッヒ・ケストナー  『飛ぶ教室』

飛ぶ教室 (光文社古典新訳文庫)

飛ぶ教室 (光文社古典新訳文庫)

 

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(実際に購入した本です。108円でした。)

 

 著者紹介

1899年‐1974年。ドイツ・ドレスデンに生まれる。貧しい生活のなかから師範学校に進むも、第一次大戦で召集される。大学卒業後、新聞社に勤める。1928年『エーミールと探偵たち』で成功をおさめたが、やがてナチスにより圧迫を受ける。1960年、国際アンデルセン大賞受賞

内容紹介 

孤独なジョニー、弱虫のウーリ、読書家ゼバスティアン、正義感の強いマルティン、いつも腹をすかせている腕っぷしの強いマティアス。同じ寄宿舎で生活する5人の少年が友情を育み、信頼を学び、大人たちに見守られながら成長していく感動的な物語。ドイツの国民作家ケストナーの代表作。

 5人の少年と、2人の大人の友情の物語となっています。 舞台は、学校と寄宿舎で、主な登場人物も男子生徒と男性教師となっています。とてもシンプルで、爽やかな少年たちのクリスマスを描いたものなのですが、読み終えたとき、胸がいっぱいになるような物語です。

 とても軽く、優しい物語だと、思いました。

 親に捨てられる、貧乏に苦しむ、愛する家族の喪失する、そうした非常に重いテーマを、軽快なタッチで描く、卓越した筆者の技量をうかがい知る事ができます。

 

 

 それでは、わたしが考えたオススメのポイントを書いていきます。

大人になる事ー少年と大人をつなぐ友情の物語

「少年は、成長し、大人になる」、当たり前のことですが、少年時代に目の前にいる大人と、少年である自分には大きな亀裂があるように感じていませんでしたでしょうか?大人になった自分は、どこか少年時代の自分とは、かけ離れた存在であるようにも感じられます。

 この物語は、少年が成長すること、そして大人が少年時代を思い返すこと、その両方を描きながら、友情という目に見えない繋がりによって、離れた人々を結びつけていくことになります。

 登場人物の再開は、ベタな展開でありながらも、それを望んでいる自分に出会えます。友情とは、時を経ても、色褪せぬものである、であって欲しいと思う、わたしたちに向けた物語です。

 

理想の少年たち

 この物語の登場人物は、頭脳明晰な少年、腕白な少年、絵画の才能に恵まれた少年、それぞれの長所が、それぞれの短所を補い合う素敵な友達に囲まれています。彼らは、互いを尊重しあい、困った時には手を差し伸べる優しさを持ち合わせています。

 この物語の少年たちは、自分の夢に向き合うことで、自分の境遇(不遇)に立ち向かおうとしています。

 

 彼らの姿は、美しく、そして、読者に勇気を与えてくれるのです。

 

友情と愛の曖昧性

  この物語で、感じたこと、それは友情は、愛と非常に曖昧なものであるということです。それは、日本の学生寮を舞台にした森鴎外の『ヰタ・セクスアリス』が、直接的な同性同士の性を描き出しているのに対して、この『飛ぶ教室』が、同性愛を描くことはありません。

 しかし、彼らの友情は、ときに深い愛と感じられるのです。それは、性的なものを差し引いた非常にプラトニックなものです。であるからこそ、彼らの友情と、異性にたいする愛情に大きな差異がないように感じてなりません。

 自分と、相手に深いつながりがあることを確信し、彼が何をすれば喜ぶのかを知り、出し惜しみすることなく自分の全てをぶつけるような、少年たちが描かれています。

 わたしは、この物語を読み、人を好きになること、その最も基本的な人間の心理について考えさせられました。

 

 素晴らしい作品ですので、是非読んでいただきたいです。

 

 

【108円本屋大賞】シリーズは、少しずつですが、続いています。

www.oniten-yomu-book.com

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