オニテンの読書会

文化・民俗や、オススメ本の紹介、思ったことも書きます。

何も起きない探偵の物語。ポール・オースター『幽霊たち』

【108円本屋大賞】

某大手古書店チェーンに存在する100円均一棚。それは、売れ残り、値段が下げられ続けた本たちが、最後に行き着く、最果ての地である。しかし、そんな棚にも、傑作、名作が眠っている。そんな本を救い出し、読み、人に勧めたら、、、

と思った、わたしが始めるシリーズです。

 

今回、ご紹介する本は、ポール・オースター『幽霊たち』です!!

幽霊たち (新潮文庫)

幽霊たち (新潮文庫)

 

 あらすじ

私立探偵のブルーは奇妙な依頼を受けた。あきらかに変装したとわかる格好のホワイトから、ブラックを見張るように、という依頼だった。ブラックの住む部屋の真向かいの部屋から、ブルーは見張りを続ける。だが、ブラックの日常に何の変化もない。ブルーは、ただ毎日何かを書き、読んでいるだけなのだ。ブルーは空想の世界に彷徨う。ブラックの正体やホワイトの目的を推理していくが、実態はつかめない。次第に、ブルーは焦燥と不安に支配されていく。

  

 この物語は、探偵のブルーが主人公なのですが、ほぼ最後まで何も起きません。何も事件が起きていないのに、読み進める手を止めることができない、そんな小説になっています。事件は、起きないけれど、小さな感情の起伏、追い詰められていく主人公を丁寧に描く文学作品となっています。

 

それでは、わたしのオススメポイントです!!

①何も起こらないことからくる、実存的不安、そして「書くということ」

 この小説では、ブラックと、彼を見張るブルーの間には、まったくといっていいほど何も起きません。しかし、その何も起きない日常の中で、「自分とは何か?」、「自分はどうしたら良いのか?」という問いに、ブルーは苛まれ続けるのです。彼は、何もしない男を見続けることにより、自分の存在意義への疑問を抱くことになります。

 また、この小説では、書くということも、重要な要素となっています。書くことは、もちろん読む人がいることが前提ではありますが、孤独な作業です。孤独な作業であるからこそ、自分を見つめることになります。

 

 

②他者とは、何かを考える。

 ブルーは次第に、ブラックに対して、時に親近感をおぼえ、一体となった感覚に陥り、時には暗澹たる孤独感に襲われます。彼は、ブラックによって支配された、(もしくは見放された)感覚と戦うことになります。

 ここで、着目したいのが、他者とは何だろうということです。他者は、自分を表す鏡でもあります。また、自分が、こうありたいと思った時に、他者によって自分を形作ることもあるのではないでしょうか?

 この物語は、鏡となった二人の他者の物語です。

 

 

③幻想的な世界観に身を浸して

 この本では、登場人物のほとんどがブルーやブラックといったように、名前が色で表されています。そして、ニューヨークを舞台に、詳細な街並みの描写と、色彩をもつ名前のコントラストにより、幻想的な世界観が生み出されています。あたかも、街並みや情景が、色を失ったように感ぜられるのです。

 とくに、ブルーが見張る男の名はブラックです。彼を見続けることにより、ブルーは憔悴していきます。それは、あたかも、漆黒の暗闇に、色彩が奪われていくような感覚なのです。

 

 

④翻訳がカッコいい!!

 著者のポール・オースターは、1980年代のアメリカ文学を代表する作家ですので、文章が美しいのはもちろんですが、この本の翻訳もまた素晴らしいのです。

 冒頭の文章を見てみましょう。

まずはじめにブルーがいる。次にホワイトがいて、それからブラックがいて、そもそものはじまりの前にはブラウンがいる。ブラウンがブルーに仕事を教え、こつを伝授し、ブラウンが年老いたとき、ブルーがあとを継いだのだ。物語はそのようにしてはじまる。舞台はニューヨーク、時代は現代、この二点は最後まで変われない。ブルーは毎日事務所へ行き、デスクの前に坐って、何かが起きるのを待つ。長いあいだ何も起こらない。やがてホワイトという名の男がドアを開けて入ってくる。物語はそのようにしてはじまる。(5ページ)

 どうでしょうか?カッコよくないですか?わたしは、この冒頭を読んで、これは名作だと思い買いました。そして名作でした。

 

 

 このようにカッコいい文章が続きます。

    秋の夜長にぜひこの本を手に取ってみてください。

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(読んだ証として、写真を載せておきますw)

 

 

【108円本屋大賞】シリーズです!! 100円で読める名作たち、お近くの本屋さんでチェックしてはいかがでしょうかw

www.oniten-yomu-book.com

 

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