オニテンの読書会

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クズ男が生きる意味を問う。ジョージ秋山『捨てがたき人々』

 気がつけばなんども読んでしまう不思議な魅力に包まれたマンガがあります。今回紹介するマンガ、ジョージ秋山作『捨てがたき人々』は、登場人物は人格に問題がある人々ばかり、物語もかなり悲惨なものなのですが、気がつけば、また読んでいる。不思議な魅力のあるマンガであると思います。 

捨てがたき人々 上 (幻冬舎文庫)

捨てがたき人々 上 (幻冬舎文庫)

 

  

 今回の記事では、この『捨てがたき人々』の魅力に迫ります!

 

●あらすじ

職を失い、生まれ故郷に帰ってきた狸穴勇介。不細工で、金も仕事も夢もなく、考えるのはセックスのことばかり。心の荒野を彷徨っていたある時、勇介は微笑みの宗教「神我の湖」に傾倒する京子と出逢い、執拗なストーキングの末にレイプする。二人は互いに嫌悪し合いながらも離れることができずに姦通を繰り返すようになるが。

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 あらすじにあるように、主人公はブサイクで、どうしようもない男です。どうしようもない男が、どうしようもないことをして、どうしようもない日々を過ごしていく。彼は、そんな生活の中、京子という女性に出会います。彼は、彼女を襲い、彼女は彼の子を身ごもり、産むことを決心します。

 

●嘆きながら、生きる人々

 この物語に出てくる人々は、心のつながりを求めながらも、それを得るために肉体的・性的に関係をもつことを選びます。主人公の狸穴勇介は、たびたび女性を襲い、短絡的に周囲の女性と関係を持ちます。彼の行動は、ただの性欲にまかせた行動であるようにも見えますが、彼自身の心にかかえる大きな絶望も感じさせます。

 彼は、肉体的なつながりのみで成り立った夫婦の間に生まれ落ちた、と自分自身を皆しています。だから自分には、セックスしかないのだと考えているのです。

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 彼にとって、肉欲はすべてにおいてもっとも重要なものですが、物語に登場する人々にとっても肉体的なつながりが、人とのつながり、また、生きる意味を見出すものとして描かれます。象徴的なシーンとして、結婚してから肉体を許してくれない妻に対して、憤悶し、自殺を選ぶ男性が描かれます。

 この作品において、貧/富、男/女、信心/不信心、さまざまな人々のあり方が描かれていますが、すべての人に共通するのが、この性への欲求、そして執着なのです。

 

 

●なぜ、生まれたのか

 この物語で、主人公が問い続けるのが、「なぜ、生まれたのか。」という自分の人生についての問いです。

なにゆえわたしは胎から出て、死ななかったのか。腹から出た時息が絶えなかったのか。なにゆえ乳房があってそれを吸ったのか。

 この物語では、上記の言葉が繰り返し、あらわれます。なぜ、産み落とされたのか。そして、なぜ生きているのか。この問いは、ジョージ秋山作品において、共通される問いであり、有名な作品では、『アシュラ』においても同様の問いを見ることができます。アシュラは「生まれてこなければよかったのに」と繰り返し呟き続けるのです。

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 この物語には、この問いへの明確な答えは出されていません。しかし、この物語の題名にあるように、「捨てがたき人々」、つまり、見捨てることのできない、弱い人間である彼は、人々と出会い、また、つながりを求め続けるのです。

 

 今回の記事では、ジョージ秋山作『捨てがたき人々』を紹介しました。生きることは、辛いことかもしれませんが、なぜ生きているのかを考え続ける彼の姿から、現代の虚しさを考えて欲しいと思います。 

捨てがたき人々 上 (幻冬舎文庫)

捨てがたき人々 上 (幻冬舎文庫)