排外主義の盛衰を考える。 浜本隆三 『クー・クラックス・クラン:白人至上主義結社KKKの正体』 おすすめ本の紹介です。
アメリカではトランプ大統領が生まれ、ヨーロッパでは移民排斥を訴える極右政党への支持が急増している昨今、「排外主義」という言葉を耳にするようになりました。
人々は「他者」を生み出し、「他者」を恐れ、そしてその「他者」によって自分たちの既得権益が侵されたと、被害を訴えることになります。現在の世界では、いかに被害者として振舞うことができるのかが、重要になっていることは明らかでしょう。
マイノリティーに属する人々が「加害者」となり、マジョリティーが「被害者」となるとき、人々は排外主義に走るのでしょうか。
今回は、世界的に排外主義の潮流が強まる現在、読むべき本をオススメさせていただきたいと思います。
その本は、浜本隆三『クー・クラックス・クラン:白人至上主義結社KKKの正体』です。
クー・クラックス・クラン: 白人至上主義結社KKKの正体 (平凡社新書)
- 作者: 浜本隆三
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2016/10/17
- メディア: 新書
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この本は、本邦初のKKKを対象とした専門書になります。内容は、非常に読みやすく、KKKの歴史、概要を網羅しておりますので、興味がある方は、ぜひチェックしてください。
内容
一九世紀半ば、南北戦争直後にアメリカ南部で組織された、白人至上主義結社クー・クラックス・クラン。一九二〇年代、会員数は数百万人に達したといわれ、現在でも、全米で五〇〇〇人が「クラン」と名のつく組織に所属しているといわれる。なぜ、クランの火種は燻りつづけるのか。世界的に排外主義の潮流が強まるなか、KKK盛衰の背景とメカニズムを考察する。
最近では、トランプ大統領が生まれ、クー・クラックス・クランの活動が活発化されてきているとの記事が出ています。現在でも、根深く残っているアメリカの思想の一つとして理解、勉強することが重要であると考えられます。
現代、世界を席巻している排外主義を知るために、ぜひこの本を一読していただきたいです。
それでは、わたしのオススメするポイントを書いていきたいと思います。
KKKの歴史をわかりやすく解説
この本は、専門的にKKKを扱う日本で初めての本です。ですから、ある種の「入門書」として、KKKの歴史をわかりやすく書かれています。
KKKは、テネシー州のプラスキという田舎町で、1866年に結成されました。設立メンバーは、6名の若者で、みな南北戦争に従軍した元南部連合軍の兵士でした。最初は、いたずらレベルの活動であったのですが、徐々に黒人に対する暴力、リンチを行うようになり、人々の注目を集め、最大で55万人が加入したと言われています。彼らの活動は、1871年にクランの活動を制限する「クラン対策法」により終息したのですが、20世紀初頭に復活し900万人の会員を集めたものの組織内部の腐敗が明るみになり衰退、また1960年代にまた活発化するなど、盛衰を繰り返しているのです。
いままで知らなかったKKKの姿
この本で、最も興味をそそられたのは、今まで知らなかったKKKの姿です。例えば、上述したように最初は6名の若者が、集まっただけのサークルのような集団でした。その活動というのは、仮装して町の人々を驚かすというものあり、イタズラ集団のようなものであったそうです。
この本では、クランに加入するための加入儀礼についても、取り上げています。クランの本部は「巣窟」と呼ばれ、加入希望者が訪れると案内役の「官吏」が質問をし、人物に問題なければ、目隠しをして「巣窟」の中に導き、そこで、「一つ目の巨人」とよばれる人物によってあらゆる質問を受けることになり、それによって、加入をゆるされると、王冠を与えると告げられるのですが、実際にはボロボロで、ロバの耳がつけられた帽子を被らされるという、いたずらを含んだものであったそうです。
この他にも、儀礼や装飾についての記述、そして慈善活動団体としてのKKKの姿が描かれており非常に興味深いものとなっています。
世界の動向を知る
トランプ大統領は、「アメリカを再び偉大にする」と宣言しています。彼らは、本来のアメリカを取り戻そうと、人々に呼びかけるのです。彼は、人々の「失ったもの」を取り戻すと主張し、聴衆の「喪失感」をくすぐります。このような言動は、右翼運動と重なるものであるといいます。右翼活動とは「比較的優位にあった集団が、その成員と権益者の、権利と特権の保持、復権、拡大を目指して行う社会活動」です。
現代では、ヨーロッパにおいても移民の流入、増加により極右政党の支持が広がっているといいます。
こうした現代において、排外主義を唱えたKKKの歴史、そして思想の特質を知ることは、正確な判断をするための非常に重要な「資料」となるものであると思います。
この本では、現代のトランプ現象をも含め、書かれています。
この本とともに、
反知性主義を学ぶことで、より深く現代の人々の変わりゆく思想を学ぶことができるのではないかとおもいます。