自爆する民主主義 「ポピュリズム」を知ろう!! 薬師院仁志著『ポピュリズム〜世界を覆い尽くす「魔物」の正体〜』
最近よく聞くけれど、いまいちよくわからない言葉ってありますよね。そうした言葉たちは、世界の移り変わりの中で消費され、いつしか常用される単語として残る、もしくはすぐに消え去っていくのかもしれません。
「ポピュリズム」、ニュースで聞くようになったのは、ここ5,6年くらいになるでしょうか?みなさんは、「ポピュリズム」をどのように理解されていますでしょうか?
今回の記事では、「ポピュリズム」という言葉、そして現象を対象に論じた本を紹介いたします。
薬師院仁志『ポピュリズム〜世界を覆い尽くす「魔物」の正体〜』
【目次】
このタイトル構成やトランプ大統領の帯でわかるように、おそらく森本あんり著『反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体』を意識したものであると思います。
反知性主義が「熱病」であるのにたいして、ポピュリズムは「魔物」とされ、規模もアメリカから、世界へと広がっているのですが、現代の政治動向を理解するうえで、覚えておくべき、知っているとわかりやすくなる用語を、歴史的かつ思想的な枠組みで説明するものであるという点でも、共通する部分が多くあります。
ですので、どちらかの本を読んでいらっしゃるのであれば、両方とも読むのをオススメしたいと思います!!
それでは、わたしが読んで面白かったと思ったポイントを書いていきます!
「ポピュリスト」という人間のあり方
この本では、「ポピュリズム」や「ポピュリスト」の明確な定義は難しいとしながらも、数々の事例を紹介し、「ポピュリスト」となりうる人々の傾向を紹介しています。
たとえば、政治家による「〇〇をぶっ壊す」、「壁を立てる」などの現実味の薄い提言が、「本音」と解釈される危険性に触れ、
「できるわけない」ことを叫けぶ者は、「大バカ野郎」でありこそすれ、本音を語る政治家ではない。(18頁)
と、政治家としての資質について触れ、彼らが人心を掌握する過程において「敵」の存在が必要となり、
「人民の敵」に対抗するのが自分たちであり、つまるところ「人民の敵の敵」が自分たちだという、何とも奇妙な自己規定が成立するのである。(73頁)
と、説明します。そして、彼らはそうした敵や人々の不満に対する「救世主」的な存在として、自己を演出し、あくまで「敵」を攻撃することに人々の注目を集め、世論を分断し、政策ではなく自分という「人間」に投票をさせるというのです。
なかなか、考えさせる指摘だな、と思いました。
ポピュリストが望む「民主主義」について
ポピュリストの傾向の一つに、反議会主義的である一方で、無媒介的な直接決定には、非常に肯定的であることをあげています。無媒介的な直接決定は、住民投票などの、政治家や官僚を排除して、直接人々の投票で決定することを指しています。
そして、著者である薬師院さんは、以下のように指摘します。
そんな発想が民主的であるわけはない。熟議なき直接決定は、短絡的な多数決に過ぎず、数の多寡だけで決まる勝ち負けでしかないからである。
(99頁)
この文書を読んで考えたのは、熟議なき決定=短絡的な多数決、という文言を、つい最近読んだなぁということでした。住民投票などはないですが、熟議なき&数の原理という意味では、共通するものであると思います。わたしが思い浮かんだ記事は、これです。
ここで、共通するのは、「熟議」の必要性、そしてその「場」となる国会議員の存在でしょうか。他の議員や官僚の存在を軽視することが、熟議なき決定につながるということでしょうか?
(少し脱線します。)そういえば、日本で有数の市場の移転も、住民投票案が出ていたような?気づけば、自分以外の政治家がいないように見える「劇場」を作っている方もいるような?しかも、それは、森の「王殺し」をともなって繰り返されているような?
この本において、わたしが、面白いなとおもったのは、民主主義にはコストがかかるということを、著者が繰り返し述べていることです。
わたしたちは、ついつい議員定数削減、議員報酬の削減こそが、健全な議会運営において重要であるように考えてしまいがちですが、人口比率、選挙資金などを鑑みれば、少数派の代表となり得る議員を確保するには、議員の定数は確保するべきでしょうし、給料を下げることが良い人材(とりわけ優秀な人材)を獲得することに繋がることにはならないのではないかと指摘されています。
橋下徹元大阪府知事(市長)へのラブレター
この本では、アメリカ、フランス、そして日本が主な考察対象となっています。その中でも、大阪府知事、市長を歴任された橋下徹さんを事例が多く使用されています。わたしが、この本を読んで驚いたのは、引用された橋下徹さんの数々のツイートです。これを、著者である薬師院さんは、一つ一つ読み、引用するために書き足したのであれば、それは、かなり橋下さんのひとなり、そして自分との関係を見つめる作業だったのではないでしょうか。
政治において反エリート主義が蔓延し、学者(ポピュリストを批判する知識人)が、攻撃されることが多くなった昨今、一人の社会学者が、一人の政治家へ宛てた「手紙」としても読めるのではないかと思います。
とても、明快で、200ページ程度の本ですので、時間が空いた時にでもさらっと読めるものです。しかし、読んだ後に残るものは、大きいと思います。