オニテンの読書会

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「闇の中世」と、「光のルネサンス」は如何に作られたのか? ジャック・ル=ゴフ『時代区分は本当に必要か?』 おすすめ本の紹介です。

  古代、中世、近代、そして現代と、歴史を区切った「時代区分」についての学術書をご紹介いたします。歴史書というよりは、「◯◯時代」と呼ばれる時代区分を作り出した歴史家の思想や、作り出された時代区分の影響について考察されている本です。ですので、少し哲学的な内容となっていますが、歴史が変わりゆくものであるということを考える格好の教材となるのではないでしょうか。

 

 

 ジャック・ル=ゴフ 『時代区分は本当に必要か?』

時代区分は本当に必要か? 〔連続性と不連続性を再考する〕

時代区分は本当に必要か? 〔連続性と不連続性を再考する〕

 

 内容紹介

人間の歴史認識において「時代区分」はいかなる意味を持つのか?
我々の歴史認識を強く束縛する「時代」という枠組みは、いかなる前提を潜ませているのか。アナール派中世史の泰斗が、「闇の時代=中世」から「光の時代=ルネッサンス」へ、という史観の発生を跡付け、「過去からの進歩」「過去からの断絶」を過剰に背負わされた「時代」概念の再検討を迫る。

 

 

 それでは、この本のおすすめポイントをご説明いたします。

「時代」は如何にして作られたのか、を知る。

 この本では、ヨーロッパにおいて歴史家によって作り上げられた時代区分を概観することになるのですが、主な論点は中世とルネサンスになります。この中世とルネサンスは、「闇の時代=中世」と「光の時代=ルネサンス」というイメージで広く知られています。こうしたイメージが如何に作られていったのかを、考察している本となっています。

 光の時代としてのルネサンスというイメージの創出は、ジョール・ミシュレ(1798-1874)によるものです。

 ル=ゴフは、そのイメージの創出をこう説明しています。

歴史家としての仕事のはじめから、ミシュレにとって史料とは想像力の跳躍版、ヴィジョンの始動装置にほかならない。(60頁)

 つまりは、事実としての史料が歴史を作り上げるのではなく、歴史家の想像力が史料と結びつき、発展することで歴史が作り上げられるのです。

 当初、ミシュレは、中世を祝祭と光と生命と豊かさの時代と捉えていましたが、ミシュレ自身の家庭の不幸により、中世を不毛な時代と捉えるようになってしまう、そして、歴史家であるミシュレは、中世を敵とみなし、新たな光を求めることになったのです。それが、ルネサンスでした。

 こうしたミシュレによる「ルネサンス」の発明により、「闇の時代=中世」と「光の時代=ルネサンス」というイメージが普及していきます。

 

 歴史が作られる過程が詳述されており、非常に興味深い読み物となっています。

 

宗教と魔術と、時代区分

 ヨーロッパの時代区分を考える際に、宗教を無視することはできません。その中でも、中世やルネサンスはキリスト教にとって、大きな変革の時代でした。

 ヨーロッパにおける中世とは、教会権力の支配する宗教的な時代でした。その後、16世紀の宗教改革によって、新たなキリスト教徒、プロテスタントが生まれます。また、この時期、中世からルネサンスにかけて、魔術が普及していきます。

 魔術の普及は、15世紀であり、異端審問や、千年王国の宗教運動は中世よりむしろルネサンスに活発になるのです。

 魔女については、以前記事でまとめましたので、興味がある方はそちらを読んでいただけると嬉しいです!!

www.oniten-yomu-book.com

 

 キリスト教や異端について興味がある方にも、おすすめです!

 

 

ヨーロッパの事例から、日本を考える

 この本は、ヨーロッパの中世とルネサンスを対象に論を進めているものですが、日本を事例に考えても、面白いのではないでしょうか。

 例えば、最近では、明治維新を「薩長によって都合よく作り上げられたもの」と考え、敗者となり賊軍とされた幕府側を擁護するような本が多く出版されるようになっています。今までの歴史観を覆すことを目的としたものであると思いますし、こうした本の出版からも、歴史が如何に可変性に富んだものであるかを考えることができます。

 そうした、作られる歴史観、そして時代区分について学ぶことのできる、素敵な本であると思います。