亡き友を、弔い、挑む花の戦い 鬼塚忠『花戦さ』 この夏、映画化される小説のご紹介
男の友情、一つの道を極めようとする姿にキュンとなる方にオススメの小説を、ご紹介したいと思います。
題名は非常にかっこいいのですが、内容は、いたって平易で、読み終わるのに2時間くらいで十分です。気ままに読める小説ですので、新幹線や、飛行機の中で読むのに最適なページ数、内容であると思います。
今回、紹介させていただく小説は、鬼塚忠『花戦さ』です。
あらすじ
花の名手・池坊専好と茶の名人・千利休は互いに認め合い深い友情で結ばれている。ところが利休は豊臣秀吉の命で非業の死を遂げた。専好は花に救われ立ち直ったが、周りの罪なき者たちが、またもや秀吉のせいで命を落としていく。怒りに震える専好は秀吉への仇討ちを決意した。それも刃ではなく花を用いた方法で…。美と誇りを守り通した男たち。華道家元・池坊に伝わる史実をもとに描かれた感動の物語。
というのが、本の裏表紙に書かれている「あらすじ」なのですが、驚くべきことに、この「あらすじ」は、小説の内容のほぼ99%説明してしまっています。ネタバレが嫌いな人は、最後の10ページくらいしか楽しめない、ということになっていますので、ご注意を!!
ここでは、わたしが面白いなと思ったポイントを紹介いたします。
面白かったポイント
①男の友情物語ーセリヌンティウスが助からない『走れメロス』
茶の道を究めんとする千利休と、花の道を究めんとする池坊専好の出会いから、この物語は始まります。お互い、自分自身の「美」をもとめ、模索するうちに、自ずと交流を持つようになり、友情を育みます。仲の良さを表すエピソードのみとなっており、「美」の追求のために、対立することもなく、ひたすらに、お互いを認め合います。
ですので、ライバル同士、男同士が対立、喧嘩を繰り返したところで、友情がうまれるのではなく、すぐに仲良くなっています。
そして、利休が殺されてしまったところから、池坊が奮起するのですが、内容としては、セリヌンティウスが助からない『走れメロス』っぽいな、と思いましたw
②徹底されたベター短絡的な登場人物ー
この物語に、深みは、あまりありません。それ以前に、1人1エピソード1殺、というようなパターンがあり、読み手が迷わずにすむ親切設計です。そのため、人間の機微を重要視されている方は、あまりオススメできないものとなっています。
しかし、この物語の根幹にあるのは、一つのことしか考えられない人間が、自分の大切なものを守る、というものです。そのため、話がシンプルな方が、伝わるのかもしれません。
映画化され、今年の6月に放映開始だそうです。そのビジュアルがとても残念な出来です。
見ての通り、千利休と池坊専好の、渋み、深みは、全くと言っていいほど、表現しようとしてないですね。侘び寂びは、どこにいったのでしょうか。
ということで、娯楽性を高めた、エンターテイメント作品になったようです。
実写化にあわせて、小説と映画を楽しむのも、良いかもしれませんね!
最後に感想ですが、
わたしとしては、なぜ、「美」を守ろうとして死んだ、利休の弔い合戦で、池坊専好は、自分の追い求めた「美」ではなく、「理」や「機知」で勝負したのか、非常に引っかかりました。