よみがえる伝承・都市伝説 常光徹『学校の怪談−口承文芸の研究〈1〉』 おすすめの本の紹介 & めざせ!妖怪検定!⑤
今回の記事では、一冊の本の内容を紹介していきたいと思います。
〈目次〉
「トイレの花子」や「口裂け女」のような、1980年代に一世風靡した都市伝説の背後には、急速的な社会変遷との関係性があります。しかし、これらの物語や設定などは全て「新しいもの」ではありませんでした。今回は常光徹の『学校の怪談:口承文芸研究Ⅰ』を紹介し、「物語の枠組み」から、現代風の話の中に潜む昔の伝承との類似性を見出していきたいと思います。
「学校の怪談」を研究する
この本の中に取り上げた怪談話は、ほぼ著者の常光先生が1980年代に書いたものです。「はじめに」と「あとかき」によると、当時、口承文芸などの物語を調査したいなら、山奥の集落で年寄りの長老に聞くのが普通のようでした。大学卒業後、著者は中学校の先生と勤めながら、夏休みや冬休みを利用して東北地方や北陸地方などに向かい、物語の収集に注力したそうです。ところが、お年寄りの話し手がますます探しにくくなり、この状況に対して、常光は「伝承の危機」に悩まされました。1985年、勤め先の学校の中学生達から話を聞くこときっかけに、彼は、村を基盤にする昔話が衰退としても、「話」自体は衰退することはなかったことに気づきました。その後、学校に関する話色々を集め、村落社会と違う新しい伝承空間の存在を提示した。
『学校の怪談:口承文芸研究Ⅰ』では、トイレ、教室、家、予兆譚などの場所や物語の類型を取り上げて、ここでは最初に取り上げられた「トイレ」を中心に内容を紹介していきたいと思います。
まずは、「赤い紙・青い紙」の類型の話です。
トイレで、赤い紙を選ぶと血まみれになって死に、青い紙を選ぶと真っ青になって死に、黄色い紙を選ぶと助かって、白い紙を選ぶと壁に引きずり込まれる。
(怪異・妖怪伝承データベース:http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiCard/2610023.shtml)より
そして、「赤い紙・青い紙」を取り上げると同時に、似ている話として「紅いはんてん」を取り上げます。ここで掲載している「赤いチャンチャンコ」も同じモチーフの話です。
ある学校で女の子がトイレに入ると「赤いチャンチャンコ着せましょうか」という声が聞こえてきたので、怖くなり逃げ出した。翌日、警察官と婦人警官がそのトイレを見張っていた。婦人警官がトイレに行くと同じように声が聞こえてきた。婦人警官が「着せて」と答えると、婦人警官は首を切られて死に、飛び散った血で服が赤いチャンチャンコのようになった。
(怪異・妖怪伝承データベース:http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiCard/2470038.shtml)より
タイトルは一見意味不明ですが、最後はまさかの血まみれのことを指し、本当に怖かったですね……
「赤い紙・青い紙」と「赤いチャンチャンコ」の二つの話は違うように見えますが、物語の構成からみると、両方とも、
「①挑発(問いかけ)―②反応(選択/回答)―③結果(被害)」の三段階から構成される話しで、昔の「やろうか水」の構造と似ています。
(遣ろうか水の話は、妖怪検定ノートを参照)
そして、トイレの際に、下半身が何も着ていない状態になり、しかもちょっと臭う、薄暗い狭い場所に閉じ込められた緊張感から、身体が触れられる恐怖や覗かれた不安などもつながっています。
例えばこのような話、
小学校のトイレの天井に穴があいていた。そこからお化けが出てきてお尻をさわる。お化けは後ろを振り向くと逃げていく。
(怪異・妖怪伝承データベース:http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiCard/2470037.shtml)より
と、このような話
ある先生が以前勤めていた学校には、学校の外にトイレがある。その一番奥のトイレにはいつも鍵がかかっている。鍵穴を覗いてみると中の目がこちらを見ている。
(怪異・妖怪伝承データベース:http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiCard/0970061.shtml)より
触られた恐怖と覗かれた恐怖から見ると、昔にも類似する感覚がありましたが、物語の中心は触れることより、むしろ触れた後のことがポイントだと思います…
めざせ!妖怪検定!!
それでは、妖怪検定ノートの内容に入りたいと思います。
ぜひ手元の『決定版 日本妖怪大全』と合わせて参照してください。
キャロルの妖怪検定ノート:
1.遣ろうか水(頁752)
- 状況:大雨が降り続ける際に、川の上流から「やろうか、やろうか」の声、村人が、「寄こさば寄こせ」と返事しました。すると、流れが増え、あたりが海になった。
- 地域:尾張(現:愛知県)、美濃(現:岐阜県)の木曽川
2.、黒手(頁281)
- 地域:能登の戸坂村
- 笠松という人の妻が厠に行く際に尻が撫でられ、その後、笠松がその手を切り落とした。
- 四、五日の後、三人の行脚僧が来て、笠松は祈祷を頼んだ。行脚僧実は妖怪、妖怪が手を奪還。
- 一ヶ月後、その手を斬る刀も取られた。
3.狸伝膏(頁574)(※読み:、ばけものこう)
- 地域:、備前の中山下(現:、岡山県)
- 土方という士族では、女性が厠に行く際に毛深い手で撫でられた。退治、その手を切り落とした。手を見て、狸の手でした。
- 夜、狸が夢枕に立ち、手の返すことを懇願。手を返すお礼として、秘薬を授けました。
4.高女(頁422)
- 下半身がニューっと伸びることができる、遊女屋の二階を覗き歩く女性の妖怪。
- 嫉妬深い醜女
- 和歌山県では、高女房という鬼女がいる。木地屋の妻。
5.屏風覗き(頁620)
- 屏風立てて寝る際に、影から髪が垂らしていて、屏風の上から覗く。
- 大抵新婚の夜に出る。
- 封じる方法:屏風を使わない。
6.加牟波理入道(頁241)(※読み:かんばりにゅうどう)
- 厠の神。大晦日の夜、厠で「加牟波理入道ほとときす」を唱えると、一年間厠に妖怪が出ない
- 『古今百物語評判』:紫姑神。唐の李景、正月十五日で愛人を殺したため、正月では厠にこの愛人を祀る。
- 便所の神:秋田―土人形、出雲―トウモロコシの男女一対の神、閑所神
7.花子さん(頁587)
- 誰もいないトイレのドアを叩きながら、「花子さんはいますか?」と聞くと、「はーい」の返事がきて、便所から青白い手が出て、おかっぱ頭の少女が現れたことも。
- コックリさんのように、ノックの数でyesとnoを表現できる。
同じ都市伝説の類(ですが忘れられやすい)の妖怪↓
8.ヒバゴン(頁611)
- 地域:広島県東北部の山林
- 昭和45年頃キノコを探すために山に行く小学生が発見。
- 身長150~160メートル
- 全身が薄い茶色の毛。頭は逆三角形、猿でも人間でもなかった。
- ヤマンゴともいう
最後ですが、読む際に非常に興味深いと感じた「逆さま言葉」をここで紹介します。
よくわからない内容で、早口言葉として一気に読むのようです。以下は作者が中学生の男の子から聞いた話です。
とーんと昔のつい最近
今日の朝から夜だった
八十五六の孫連れて
とことことことこ這ってきた
どんどんどんどん登ってきた
海から崖に落っこちた
見てない人が発見し
急いでのろのろ電話した
一人の警官がぞろぞろと
曲がった道をまっすぐに
急いでのろのろ這ってきた
(『学校の怪談:口承文芸研究Ⅰ』、頁90)
よく分かりませんが、何故か非常に不思議な感じでした。妙に不気味です。『学校の怪談:口承文芸研究Ⅰ』の中には様々なパターンを紹介していますので、興味のある方は是非!
口承文芸の中にこのような話を「てんぽ物語」、「がっちゃま物語」という地方もあります。分析によると、非日常的な物事を一気に述べることによって、言葉の力によって混乱を創造し、その後の秩序の復活に繋がるという。近世の地誌では、盲目の法師が語られ(話の内容は違いますが、内容のモチーフは同じです)、現在では子ども達が日常的な緊張感を施す清涼剤として使われているとそうです。
妖怪検定の中にも、言葉遊びやダジャレのような妖怪が出てきます(怖くないけど 笑)。
以下二つを紹介します。
9.いそがし(頁73)
- いそがしに取り憑かれると、あくせくになります。
- あくせくをしていると、妙に安心感が包まれます。
10.火間虫入道(頁613)(※読み:ひまむしにゅうど)
- 鳥山石燕の『今昔百鬼拾遺』に描かれました。
- 怠け者の妖怪化
- 人々が一生懸命夜なべして働くと、火間虫入道が現れ灯油を舐め、人の夜なべを妨害する。
- ヘマムシと訛る、ヘマムシの文字遊戯と関係する。
『学校の怪談:口承文芸研究Ⅰ』を通して、妖怪や怖い話も時代とともに変化していくことが分かりました。そして、本の中では似ているパターンの話を複数に収録していますので、物語を楽しむだけではなく、その枠組みも一層見やすくなっている気がします。
怪談や口承文芸に関心のある方はぜひ手元に!
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